兼子税理士・社労士事務所
経営に関わる全てを総合的にサポートいたします。
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料金体系 2015年4月16日
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パートナーとしての将棋 2024年4月3日
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令和5年分確定申告を終えて 2024年3月15日
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謹賀新年2024年の抱負 2023年12月31日
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資格試験受験後の苦闘 2023年10月6日
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趣味の将棋 売り手負担の振込手数料 2023年9月16日
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お客様と共に歩む相続遺言業務 2023年7月29日
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東北税理士会からの表彰状 2023年7月6日
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新NISA活用について 2023年6月1日
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士業従事26年 2023年5月3日
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2度の転職と「一歩後退二歩前進」 2022年12月16日
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温泉王国山形と年末調整・確定申告準備中 2022年11月28日
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インボイス導入の経緯と実務 2022年11月1日
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趣味の効用 残業代が変わる 2022年7月30日
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相続検定2級を受験して 2022年5月5日
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職業生活の分岐点・所得拡大促進税制 2015年7月12日
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利益とはなんだろう 2015年2月13日
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税理士と社会保険労務士 2015年2月12日
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来月の税務 2023年10月7日
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今月の税務 2023年10月7日
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預貯金 金利計算ツール 2023年1月4日
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各種お祝い 2023年1月2日
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医療費控除Q&A 2022年12月31日
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相続税・贈与税速算表 2022年12月21日
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年齢計算ツール 2022年12月19日
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事例別非課税ライン一覧 2022年12月30日
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登録免許税の税額表 2022年12月11日
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厚生年金保険料率表 2022年12月5日
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年齢早見表 2022年11月3日
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雇用保険料率表 2022年11月3日
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全国最低賃金一覧表 2022年11月3日
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郵便料金表 2022年8月9日
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文書の保存期間 2022年3月28日
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印紙税 2021年3月11日
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青色申告決算書における勘定科目解説 2020年3月4日
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23年12月事務所移転 2015年3月1日
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消費税課否判定集 2015年3月1日
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通勤手当の税と社会保険 2023年12月5日
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インボイス制度と独禁・下請・建設業法 2023年8月9日
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《コラム》税務行政のDXは順調?令和4年分確定申告状況 2023年8月1日
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インボイス制度 免税事業者の選択と経過措置 2023年1月11日
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《コラム》受取配当等益金不算入制度の新別表の変更点 2023年1月6日
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《コラム》通勤手当を廃止して実費精算にした場合の給与計算 2023年1月6日
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個別労働紛争解決制度の施行状況 2016年7月28日
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住宅ローン繰上げ返済 相続の視点からは考え物 2016年7月20日
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28年の寿命だった法人利子割 ・65歳からの介護保険料 2016年4月7日
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社労士のアドバイス・65歳以降退職の雇用給付・ふるさと納税調整月 2015年12月22日
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特定行政書士合否通知・日本のパスポート・相続対策の有無 2015年12月13日
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64歳のあなたへ・決算すっきりシート・相続で取得した資産 2015年11月12日
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小規模企業共済・小規模事業所のマイナンバー簡便な収集と保管 2015年11月6日
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国保税か任意継続か・空き家の税制 2015年11月4日
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遺産分割協議・実子と養子(民法と相続税) 2015年10月7日
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相続は相(すがた)・遺族厚生年金 2015年8月26日
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税務の扶養・社会保険の被扶養 具体事例 2015年6月11日
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リンク集
利益とはなんだろう
利益とはなんだろう
――ドラッカーと会計の話をしよう――
中経出版―公認会計士・税理士「林總」著より ()書きは、ドラッカーが記述
税理士・社会保険労務士 兼子圭一
【第一部】
あなたの事業は「儲かっているのか?」という質問に皆さんはどうお答えしますか。
ある人の答え→赤字になってはいません。黒字なので、黒字は利益のことで、利益はすなわち儲けではないかと思いますが。
利益と儲けは同じだろうか?
適切に経営を行うためには会計の知識が不可欠であり、経営者が判断を誤るのは、会計情報を読み解く力がないからという幻想→会計の知識では、正しい経営判断ができない?
経営の目標とはなんだろう?
ある人の答え→利益の追求と思います。
黒字なのに資金繰りが火の車なのはどうしてだろう?
利益とはなんだろう?
ある人の答え→売上-費用=利益 (=儲け)-----会計の教科書記載
利益とはなにか。若いころは、利益は会社が追求すべき目標だと信じてきた。利益の意味を知らないまま、利益を追ったばかりに地獄を見たこともある。経営者としての務めは景気に左右されない会社をつくることなんだ。だが、利益の呪縛にとらわれているかぎり、それは無理な話だ。
“利益”というものが、いかにいい加減なもの代物か、そのことを知らなくてはならない。
(1)例えば、事業の目標として利益を強調することは、事業の存在を危うくするところまでマネジメントを誤らせる。今日の利益のために明日を犠牲にする。----「現代の経営(上)」
(2)投資家のウォーレン・バフェットは、会社の内容を知りたいときには証券アナリストには聞かないといっていた。彼らは利益を問題にする。利益が問題なのではない。----「ネクスト・ソサエテイ」
(3)一般の人が無知を訴える企業人自身が、同じ無知という罪を犯している。彼ら自身、利益や利益率について初歩的なことを知らない。(中略)利益に関する最も基本的な事実は、「そのようなものは存在しない」ということだからである。存在するのは、コストだけなのである。----「すでに起こった未来」
一般的な考え方は、「会計は実績を扱うものであり、会計ルールに従って決算書を作れば、たちどころに正しい実績が計算できる。この過去の情報をできるかぎりすばやく捉えて経営に生かすことが重要である」となっている。
ドラッカーやバフェットは、過去の利益をなぜ重視しないか?
⇒期間損益の仕組みに問題がある。―――会社の過去の業績を判断するために一年とか半年とかに切り分けて、期間ごとの売上から費用を差し引いてその差額である期間利益を計算している。だが、こうして計算される”期間利益”は、実は信頼するにはあまりにも危うい存在である。 会計監査がいくら強化されてなっても粉飾がなくならないのは、この期間利益の仕組みに問題があるからである。
(4)会計システムのどの部分が信用でき、どの部分が信用できないかは明らかである。われわれがとうてい歩くべきでない薄氷の上にいることは明らかである。最近キャッシュフローが重視されるようになったのも、会計学の二年生でさえ損益計算書は化粧できるからである。----「ネクスト・ソサエテイ」
銀行等に業績をよく見せたくて、利益を出すために、仮払いの精算を翌期に回したり、減価償却を少なめにしたり、材料在庫の金額を水増しすることがおこなわれる場合がある。しかし、小手先の経理操作をしたところで、商売の実態は全く変わっていない。
銀行も株主も一年より半年、半年より四半期といったように過去の短期の利益を重視する。この偏った見方によって経営者たちは将来を見据えた経営でなく、短期利益を求める経営に走ってしまいがちになる。
(5)もちろん大方のCEOは、短期利益は、会社の成績を測る尺度としては全く信頼できず、事実、判断を誤らせるということを、今では十分認識している。----「未来企業」
事業年度という暴君----会社は継続してこそ会社である。経営者の使命は会社を潰さないことである。会社は将来に向かって止まることなく進んでいる。その流れの中で、1年で一巡するビジネスもあれば、自動車会社や製薬会社のように5年・10年のサイクルで回るビジネスもある。にもかかわらず、会計はこのビジネスサイクルを無視して、1年間という期間を区切って業績を計算することを要求している。このことが、拙速な経営をうながし、会社経営の足を引っ張っているのである。
(6)ある経理畑出身の社長がいみじくもいっていたように、「事業年度という暴君」から自らを解放しない限り、合理的な事業のマネジメントは行えない。----「現代の経営(上)」
短期の利益が信用できないなら、何を信用すればいいのでしょうか?
キャッシュフローこそ儲けである----利益と儲けは別概念である。儲けとは稼いだ現金、つまりキャッシュフローのことである。 大切なのは、絵に描いた餅でなく、札束である。
儲かる----商売が順調で預金口座にお金がどんどん貯まり、気持ちに余裕のある状態
利益が出る----計算上、売上と費用を差し引いた金額がプラスのこと
(7)利益が問題なのではない。バフェットは、銀行のローンアナリストに聞くという。キャッシュフローを問題にするからである。----「ネクスト・ソサエテイ」
これまでのまとめ----?利益と儲けは違う?期間利益は過去の計算結果に過ぎず、しかもいかようにも操作ができる?ビジネスは会計期間とは関係なく継続して行われる。よって、期間利益では、会社の本当の業績はわからない。?利益の多寡に関係なく、現金を生み出せなくなると会社は破綻する。
“利益”がなんなのか “利益”の本当の意味は?
利益は会社が新たに創り出した価値
売値-仕入値-人件費・光熱費・設備費等のコスト=利益
問題点1.売上の計上時点
問題点2.どの作業が価値を作ったのか 仕入戦略? 店内接客? 総務等の事務処理?
掛売り等----収支計算と利益計算のタイミングには、ずれがある。
つまり、1年間の利益(売上高と費用の差額)と、1年間に増えた現金とは、一致しない。期間利益は容易に操作できる。それに一喜一憂してはならない。
*会計期間と経営とは本来なんの関係もない。しかし、社会制度が期間計算を要求している以上、経営者も期間利益を重視しないわけにはいかない。期間利益は簡単に操作できる。だから経営者は期間利益の誘惑にかられてしまう。具体的には、当期の費用を次期に先送りし、次期の売上を当期に先取りする。だが、キャッシュフローは操作できない。なにしろ元データは預金通帳だからである。
新たな価値だけが新たなキャッシュフローを生み出す
経理部に限らず、投資家も銀行も期間利益だけを重視してきた。しかもそれは簡単に操作できる。もし過去の業績をつかみたいなら、一会計期間だけでなく、少なくとも過去の数会計期間の利益操作に注目すべきである。しかし、過去の利益よりもっと大切なのは、過去から現在、そして将来にわたって価値を創造し続け、新たなキャッシュフローを生み出し続けることである。
(8)収益性の測定値は、その有する諸資源の利益創出の能力を示すものでなければならない。(中略)それはある一定期間の利益を測るものであってもならない。永続的事業体としての企業に焦点を当てなければならない。----「未来企業」
(9)現実には問題を避けつつ、利益の呪文を唱えるだけのCEOが少なくない。もうそれではすまない。----「ネクスト・ソサエテイ」
【第二部】
売れる商品はごく一部
(10)社会現象においては、一方の極の10%からせいぜい20%というごく少数のトップの事象が成果の90%を占め、残りの大多数の事象は成果の10%を占めるに過ぎない。(中略)製品ラインの中の数百品目のうちごく少数の品目によって、売上の大半が占められる。----「創造する経営者」
商品ラインナップを売れ筋に絞り込む
ある会社の分析 1,000種類の商品と数千の顧客と、100人の営業担当の会社。
売上高の90%は上位100種の商品、全体の10%の大口顧客によるもの。新規顧客をとってくる営業担当はごくわずか。
結論として、売上に貢献しているのは、わずかの商品と、わずかの顧客と、わずかの営業担当。
商品のライフサイクル
いま売れている商品がこの先ずっと売れ続けているとは限らない。商品には寿命がある。商品も常に入れ替えていかなければ、会社は存続できない。それには商品のライフサイクルをつかむことである。ドラッカーは商品(製品)をその寿命にあわせて11の類型に分類している。
(11) ①今日の主力製品----常に大きな売上をあげている。今後の成長には限界がある。
②明日の主力製品----人の年齢でいえば20代から30代にかけて。製品に勢いがあるからコストをかけようとしない。だが最もコストをかけるべき製品はこれである。コストをかければかけるほど見返りが大きくなる。次期主力製品
③生産的特殊製品----限られた市場を持つ。特定分野で差別化が図られている。
④開発製品----生まれたばかりの赤ん坊。成功するかどうかわからない。会社が新陳代謝を続けるためには、製品開発を怠ってはならない。一方でこだわりすぎると独善的製品になってしまう危険がある。消費者目線にたつこと。
⑤失敗製品----誰が見ても明らかな問題製品。経営が順調な会社では、おのずと消えていく。経営がうまく言っていない会社では、抱え込んでますます業績を悪化させていく。
⑥昨日の主力製品----定年を間近に控えたエリートサラリーマン。これまで会社を引っ張ってきたという自負がある。だが、もはや気力体力ともに衰えている。今日の主力製品と同じように売上は大きいが利益が少なくなってしまった製品。利益が少ないのは、勢いがなくなっているから、売上を落とさないようにと価格を引き下げ、広告を強化し、リベートを増やすからである。かってはスター的存在であったから誰もが愛着がある。経営者にとって大切なことは、いくら売ってもほとんど利益をもたらすことのないこの製品に恋恋としないことである。
⑦手直し用製品----何かひとつ欠落していて、それを改善すると主力製品になりうる。機能的欠陥の発見と投資判断
⑧仮の特殊製品----主力製品になりうるが、特殊製品として扱っている。主力製品へのシフト判断
⑨非生産的特殊製品----市場において、経済的な機能を果たしていない製品。顧客が代価を支払おうとしない無意味な差別化をしている製品。顧客の評価を受け止め至急撤退。
⑩独善的製品----親が溺愛する放蕩息子。経営者のこだわりによって、ヒトモノカネの経営資源が湯水のように使われている製品。将来成功する可能性はほとんどない。あまりにも多額の投資をしてきたために、経営者が現実を直視できない。しかも困ったことに、社内で最も優秀な人材がこの失敗に近い製品のために注ぎ込まれ、犠牲にされる。
⑪シンデレラ製品あるいは睡眠製品----チャンスを与えれば利益をもたらすかもしれない製品。いつもすみに置かれ、ほこりだらけで注目されることはない。第一の原因は、利益率が少ないことだ。本当はよく売れるはずなのに、利益率が低いという理由で積極的に売ろうとしない。第二の原因は、明日の主力製品の市場を荒らし、その衰退を早める可能性があると思われていること。----「創造する経営者」
(12)製品の性格の変化、特に衰退に向かっての変化を把握しなければならない。「明日の主力製品から今日の主力製品への変化、さらには、昨日の主力製品への変化をいかに知るか」「開発製品の独善的製品への変化をいかに知るか」が問題である。----「創造する経営者」
【第三部】 コストカットは、未来を奪う
プロヒィットセンター(利益が生じるところ)はどこにある
(13)およそ企業の内部には、プロヒィットセンターはない。内部にあるのはコストセンターである。技術、販売、生産、経理のいずれも、活動があってコストを発生させることだけは確実である。しかし、成果に貢献するかはわからない。----「創造する経営者」
営業部がプロヒィットセンターであり、経理部はコストセンターだから、経理部は営業部に食べさせてもらっている。この考えは正しいだろうか?
(14)プロヒィットは外からしかやってこない。顧客が注文をくれ、支払いの小切手が不渡りにならなかったとき、ようやくプロヒィットセンターをもてたといえる。それまでは、コストセンターを手にしているにすぎない。----「ネクスト・ソサエテイ」
*会社の内部はコストの塊であって、顧客が製品を買ってくれない限り、利益はどこからも生まれない。ついついプロヒィットセンターは会社の内部にあると考えてしまう。だがそうではない。会社の中はコストの塊なんだ。しかもコストは、うっかりすると際限なく増えてしまう。コストを減らしたくても簡単には減らせない。原価計算理論が発達したのは、コストは一筋縄では管理できないからである。
コストの90%はムダに使われる
コストの視点 レストランの例
材料費----食材(肉・魚・野菜等の主要材料 オリーブオイル・アンチョビ等の副材料)
製造費----厨房(料理人の人件費 調理設備費 水道光熱費 家賃)
販売・一般管理費---店内・店を管理する仕事(接客担当人件費 光熱費 家賃)
財務費(金融) ----銀行借入金利
通常、年間の売上からその売上に使ったコスト(費用)を引いて期間利益を計算している。そこに何の疑問も感じていない。だが、損益計算書の売上と費用との間には因果関係が存在していると単純に信じていいのだろうか?
*コストをかければそれだけ売上が増えるかというと、必ずしもそうではない。コストをかけすぎたために、利益が減ってしまうこともある。つまり、両者の間に明確な因果関係が存在するわけではない。
材料費と人件費と経費がまったく同じ会社でも、その売上と利益が同額になるとはかぎらない。どうしてだろうか?
(15)第一に、業績の90%が業績上位の10%からもたらされるのに対し、コストの90%は業績を生まない90%から発生する。業績とコストは関係がない。(中略)第二に、資源と活動のほとんどは、業績にほとんど貢献しない90%の作業に使われる。----「創造する経営者」
コストについても売上と同じように”10対90の法則”が支配している。
限界利益=(売上-変動費*) *売上と比例的に増減するコスト 例えば材料費
固定費→10対90の法則”が支配しているコスト 売上の大小にかかわらず、毎月ほぼ同じ金額が発生するコスト 例えば人件費・家賃・水道光熱費・支払利息
(16)経理の帳簿や経営者の頭の中では、利益とコストが循環しているが、現実は違う。確かに利益はコストを賄う。しかし、利益を生み出す活動に意識的に力を入れないならば、コストは何も生まない活動、単に多忙な活動に向かっていく。----「創造する経営者」
これまでの整理----経営者は利益を増やそうとしてお金をかける。会計のテキストでは売上からそれにかかった費用を差し引いて利益を計算すると教えている。だが、現実はそうではない。売上とコストは対応していない。それどころか意識していないとお金は無駄に使われてしまう。ところが損益計算書を見てもお金がどのように使われたのか、何も書かれていない。かかった金額はわかっても、それが利益を生むのに使われたか、無駄に使われたかは、損益計算書の隅々まで目を通してもけっしてわからない。にもかかわらず、業績が悪くなると、むやみにコストを削って利益を確保しようとする。帳簿上の数字合わせだけで会社の経営ができるわけがない。実に愚かなことだ。
コスト、つまりお金は利益を生むように使わなくてはならない。
目標を実現するためにお金を使う
短期利益に翻弄されてはならない。目指すべきは長期の利益であって、将来のキャッシュフローである。お金は目標を実現するために使わなくてはならない。お金の使い方が将来を決める。管理可能な支出をどのようにコントロールするかが大切である。
(17)管理可能な支出とは、過去の投資から派生する費用のように取り消すことのできない意思決定の結果としての支出以外の支出、人件費や原材料費のように現在の事業から余儀なくされている支出以外の支出すべてである。それはまさに、今日のマネジメントが決定する支出である。----「現代の経営(上)」
管理可能な支出の具体例----経営者人件費・研究開発費・販売促進費・広告宣伝費・アフターサービス費・教育訓練費・設備更新、設備合理化、設備拡張などの費用。
経営者がお金を使うのは、5年後、10年後に設定した目標を達成するためである。会計では効果が1年以内の支出を費用、もっと長期にわたる効果が期待される支出を投資と区別しているにすぎないのである。どちらも現金が出ていくことに変わりがないし、注意していないと効果をもたらさないことに使われてしまう。
コストを削減するために、「こまめに電気を消したり、水を節約したり、トイレットペーパーの質を落としたり----ちりも積もれば山になる」→誰もが思いついて、かつ従業員のモチベーションに水を差す最悪の方法 経費節減を強引に進めたために信頼していた部下が辞めてしまった。経験豊富な人材がいなくなったら当然業績は落ちた。その後景気が上向いたときに商売を拡大しようとしたが、任せられる人がいなかった。かといって泥縄式に募集してもいい人材は集まらない。従業員を育てるには時間がかかる。つまり、短期の利益のために、最も大切な長期の利益を犠牲にしてしまった。
(18)管理可能な支出については長期的な視点が必要である。あらゆる活動が短期間だけ強化しても成果はあがらない。しかも支出の急激な減額は、長年築いてきたものを一日で壊す。(中略)売上が10%落ちただけで、トイレの石鹸をストップするなどということは、行ってはならない。----「現代の経営(上)」
(19)好況時に予算を増額し、景気にちょっとしたかげりが見えただけでそれを減額するような場当たり的な方法でなく、たとえ間違っていたとしてもマネジメントの判断によって行う必要がある。----「現代の経営(上)」
*業績が悪くなると、残業代を節約し、出張旅費を削減し、広告宣伝をやめ、鉛筆と消しゴムの支給を禁止する会社がある。しかし、業績が悪化したのは、過去にしてきた何千、何億という無駄な支出(投資)がキャッシュを生んでいないからである。だが、経営者はそれだけ失敗をしておきながらそんなことはおくびにも出さずに、部下に節約を強いている。
投資もコストも同じ支出
現金を使う際に考えるべきことは、それが将来の現金収入、つまりキャッシュフローをもたらすか、あるいは将来の現金収入を減らすかだ。現金支出がコストなのか固定資産なのかは関係がない。短期の利益を捻出するために支出を削減することは、将来のキャッシュフローを放棄することに他ならない。だから会社から活力がなくなってしまう。
(20)目標の達成に関しては、目先すなわち二、三年先と、その先の将来すなわち五年以上先とのバランスを考える必要がある。このバランスは管理可能な支出についての予算によって実現される。近い将来と遠い将来のバランスに影響を及ぼす意思決定は、すべて管理可能な支出についての決定によって行わなければならない。----「現代の経営(上)」
利益を出すため全てのコストを一律5%切り詰め→ナンセンスの典型
現実のビジネスでは、業績を挙げている活動にも、浪費的な活動にも、同じように資金が使われている。ならば、浪費的な活動のコストを優先的に削るべきである。しかもコストは一種類だけではない。人件費とか広告宣伝費のように金額が大きいコストから事務用品費や会議費のようにわずかなコストまでさまざまだ。金額が小さくとも削るとなるとそれなりに労力がかかる。
この整理----どんな活動にもコストがかかる。そしてコストの90%は価値を生まない90%の活動から発生する。ということは、削減すべき対象は、この90%のコストを生じさせる活動でなければならない。
(21)一律的なコスト削減計画では、うまくいっても効果は小さい。(中略)第一に、コスト管理は、最大のコストに集中しなければならない。5万ドルのコストの一割削減に要する労力は、500万ドルのコストの一割削減に要する労力とほとんど同じである。(中略)第二に、コストはその種類によって管理しなければならない。(中略)第三に、コスト削減の最も効果的な方法は、活動そのものをやめることである。----「創造する経営者」
削れないコスト コストは全て必要でムダがあるとは思えない
損益計算書には、かかったコストは書かれていても、どれだけムダがあったかは書かれていない。決算書とにらめっこしてもわからない。会社の中には目に見えないムダがいっぱいある。そして、そのムダは会計数値にはいっさい表れない。経営者に危機感がわいてこないのは当然である。
具体例 航空会社のファーストクラスの料理→航空会社がこのフライトで用意したのはフレンチコースのフルコースと懐石料理であった。しかし客である私が食べたのはチーズとうどんとおりぎりだけ。用意した高級料理はゴミ箱に捨てられてしまう可能性が大である。もったいないがムダそのものである。
ドラッカーは会計情報こそが経営者が最も頼りにする経営情報であると指摘した。だが、同時にそれは欠陥だらけの情報システムであることも見抜いていた。
(22)会計こそ最古の情報システムである。あらゆる意味で陳腐化しているにもかかわらず、理解できるなじみのものであるがゆえに、いまだに生き長らえている情報システムである。----「ネクスト・ソサエティ」
一般的な簿記への認識→「複式簿記こそが、経済発展を支えた人類の最高の発明」
*伝統的な会計では、会社の内側が表現できない。
(23)企業が収入を得るのは、コストの管理ではなく、富の創造によってである。この当たり前のことが、これまでの会計に反映されていない。----「明日を支配するもの」
世の中には、原価を管理すれば利益が増える、と信じている人がいる。そうではない。企業は価値を創り出すことで、利益を生み出しているのだ。しかし、これまでの会計情報には、そんな当たり前のことさえ反映されていない。
料理店の具体例----厨房では、買ってきた食材を使って料理を作り、店ではソムリエやウエイターが接客して、料理の代金をもらっている。つまり、材料に価値を付与して料理という新たな価値を創り、その価値に相当する現金を客から受け取っている。このプロセスにおけるコストが会計情報には表現されていない。今の会計が抱えている最大の問題点である。
(24)どれだけの収入があるかはつかんでいる。どれだけの支出があるかもつかんでいる。どこへ支出したかさえわかる。しかし、支出と成果を結びつけることができない。その方法がわからない。----「ネクスト・ソサエティ」
価値はどこで創られているか→ビジネスプロセス全体で考える
(25)製造を、原材料を経済的満足に変えるプロセスとして定義するならば、製造プロセスは、製品が工場を出たときに終わるのではないことになる。物流やアフターサービスも、製造プロセスの一部であり、工場と融合し、調整し、管理しなければならない。----「テクノロジストの条件」
これまでの整理----第一に、ビジネスプロセスではさまざまな活動がおこなわれていて、その活動を維持するためにはコストがかかる。第二に、ビジネスプロセスでの活動が材料に価値を付与し、富を創造している。第三に、全ての活動が価値を付与しているわけではない。第四に、会計資料には、価値を生まない活動の存在も、それらの価値を生まない活動にどれだけのコストがかかったのかも、なにも書かれていない。
コストだけ生じて価値を生まない活動の具体例(レストラン) ----食材の配合を間違えて、料理を捨ててしまった場合のその料理に使った材料と時間。突然の大雨で予約キャンセルが相次ぎ、客が一人も来なかったときの、給料や営業時間中の照明代。
間違いだらけの原価計算
通常の製造原価計算----材料費+労務費+経費
製品原価は、材料を購入し、その材料を製品に変換し、保管し、顧客に届け、アフターケアするまでのプロセスで生じたコストで構成されていると考えるべきである。一連のビジネスプロセスで費やしたコストの合計→材料に価値を付与し、現金に変換するまでの”通しのコスト”のこと
ビジネスプロセスの重要性
ビジネスプロセスの重要性の具体例----本場でのベルリンフィルを聴きにいって大満足したこと。それは、単に演奏がすばらしかっただけではない。チケットを買い、おしゃれをして会場に向かい、途中で軽い食事をとり、演奏までの間パンフレットを見ながら期待を膨らませ、フルオーケストラの演奏に酔いしれた。途中でシャンパンを飲み、そして後半の演奏の余韻とともに会場を後にした。この一連のプロセスに満足したんだ。
演奏だけに満足したわけではない。会社も同じだ。全体は部分の総計ではない。つまりビジネスプロセスは、単に一つ一つの活動をつなぎあわせたものではない。プロセスの一部を切り離してそこだけを眺めても、正しい原価は得られない。
(26)70年前にGMが開発した今日の原価計算は、ここの作業のコストの和をもって総コストとした。だが、競争上および収益上意味をもつコストは、プロセス全体のコストである。ABC(Activity Based Costing)原価計算(活動基準原価計算)が把握し、管理しようとするコストがこれである。----「明日を支配するもの」
ドラッカーが1964年に書いた「創造する経営者」に活動基準原価計算と同じ内容のことが書かれていた。そこには、コストとは経済の概念であるとともに、大切なのはプロセスにおける一連の経済連鎖で生じる全てのコストである。さらにコストは活動によって生じるとも書かれていた。
(27)コストとは、製品やサービスを購入しその効用を得るために、最終消費者が支払うものである。(中略)しかし、消費者にとって重要なのは、全体のコストである。コストが原材料から最終製品にいたる一連の経済活動のどこで発生しているかは全く関心のないことである。消費者にとっての関心は、得るものに対する支払いの総額である。----「創造する経営者」
第二次大戦後、原価計算はアメリカの主要な輸出品になっていた。多くの日本企業もアメリカから原価計算を学んだ。だが、この原価計算は1920年代の巨大メーカーで作られたものだから、現代の企業にはそぐわない欠陥だらけのシステムなんだ。製造プロセスも見えないし、歪んだ製品原価しか計算できない。
1920年代のアメリカは、大量生産大量消費の時代だった。機械化が進んだとはいえ、生産を担っていたのは工場労働者だった。今と違って、間接部門は小さく、労働者のほとんどは生産に従事していた。しかも製品の種類は今のように多くなかった。同じ設備を使って、何種類もの製品を作るなんてことはなかったんだ。ドラッカーは伝統的原価計算に四つの欠陥を記している。
(28)①従来の原価計算は、原材料を除く総コストのうち、肉体労働者の直接労働コストが80%を占めていた1920年代当時の現実にもとづいたままである。
②原価計算は、製造プロセスや製造方法の変更によるコスト削減まで、直接労働コストの比によって比例計算している。
③原価計算は生産時のコストしか把握できない。
④原価計算は工場を独立した存在として扱っている。工場内のコストだけを現実のものとして把握する。プロセスの変化が製品やサービスの質に及ぼす影響は、推定に過ぎないとして把握しようとしない。1970年代以降のGMの苦境がまさにこの問題を浮き彫りにした。----「テクノロジストの条件」
ABCの登場で、「管理会計」がやっと時代に追いついた。
ABCが提供する情報は二つある。ひとつは製品原価の対象だ。従来の原価計算では、工場でかかったコストだけを対象としていた。しかし、ABCは材料が工場に到着してから、保管、生産、検査、出荷を終えて、製品が最終消費者に達するまでプロセス全体を対象にする。
(29) ABC原価計算は、原材料や資材や部品が工場に到着したところから、製品が最終消費者に手元に達した後までのプロセス全体を把握する。たとえ消費者が負担していようとも、設置やアフターサービスのコストまで、製品のコストの一部としてとらえる。----「明日を支配するもの」
最後にコストを負担するのは誰か→代金を支払う消費者
ついつい製品を作るのにかかったコストを前提として販売価格を決めてしまう。だがそれは間違いだ。製品の価格は消費者が決める。仮にこの製品に消費者が負担してもよいとする価格が一万円としたら、この製品の販売価格は一万円を超えることはできない。製品コストは一万円から必要な利益を差し引いた額から超えることはできない。この製品にかけられる総コストの上限は消費者が決めている。
(30)経済連鎖全体のコストを管理することは、コスト主導の価格設定から、価格主導のコスト管理に移行することに伴う必然でもある。----「明日を支配するもの」
ムダなコストの正体
活動には、価値を生み出すものと、生み出さないものがある。しかも価値を生み出さない活動の割合は想像以上に多い。これまでの“10対90の法則”も管理可能支出の話も、収益と費用は対応していないという話も、コストの発生を管理するだけでは、全てのムダを排除することはできない。ということである。伝統的な会計ではこのことについて何も教えてくれない。→そこでABCを使う。
(31)ABC原価計算は、機械の遊休時間や材料、工具の待ち時間、出荷の待ち時間、不良品の手直し、および廃棄処分のコストなど、なにもしないことに伴うコスト、すなわち、かっての原価計算が把握できず、従って把握してこなかったコストこそ、何かをすることに伴うコストに匹敵する大きさである。ときには上回りさえする。従ってABC原価計算は、これまでの原価計算よりも、コストの管理に優れているだけでなく、成果の管理を可能にする。-――-「明日を支配するもの」
ABCが提供する情報はふたつめの情報は、この成果の管理を可能にすることである。ドラッカーが富の創造プロセスを強調する理由は、”事業を成功させるものは、コストでなく価値の創造である”と考えている。
将来は誰にもわからない。しかし、誰でも切り開くことはできる。
成果を出すには何をすべきか論理的に考えること
利益とは何だろう→会社が生き続けるための糧 豊かな人生には、必要最低限のお金が必要 お金を稼ぐことは人生の目的ではない。前提である。
ドラッカーは利益の機能として三つあげている。
(32)①利益は事業活動の有効性と健全性を測定する。まさに利益は事業にとって究極の判定基準である。
②利益は陳腐化、更新、リスク、不確実性をカバーする。この観点から見るならば、いわゆる利益なるものは存在しないことになる。こうしたコストを生み出すことは企業の責任そのものである。
③利益は、直接的には社内留保による自己金融の道を開き、間接的には事業に適した形での外部資金の導入誘因となることによって、事業のイノベーションと拡大に必要な資金の調達を確実にする。----「現代の経営(上)」
むすびにかえて----ドラッカーの言葉
(33)企業にとって第一の責任は、存続することである。(中略) 利益の最大化が企業活動の動機であるか否かは定かではない。 これに対し、未来のリスクを賄うための利益、事業の存続を可能とし、富を生み出す資源の能力を維持するための最低限度の利益をあげることは、企業にとって絶対の条件である。----「現代の経営(上)」