(1)はじめに
近年、政府が取り組んでいる中小企業の事業承継対策の一環として、平成21年度の税制改正で新たな法制度が整備されました。
この新たな税制が適用されることによって、従来に比べて税負担が大幅に軽減されるため、中小企業の事業承継がやりやすくなることは確かでしょう。
しかし、注意しなければならないのは、この制度は、あくまでも「納税猶予」であって、初めから納税が免除されるわけではないという点です。
以下では、この「相続税及び贈与税の納税猶予措置」の概要を説明します。
(2)「非公開株式の相続税・贈与税の納税猶予措置」
≪制度の概要≫
中小企業の非公開株式を、その後継者に相続又は贈与させた場合における相続税又は贈与税の80%相当の納税を猶予するというものです。
≪適用対象≫
・相続 = 平成20年10月1日以降の相続に遡って適用
・贈与 = 平成21年4月1日以降の贈与に対して適用
≪適用要件≫
この制度の適用を受けて最終的に税負担が完全に免除されるためには、5年間の事業継続要件をはじめ、所定の要件を完全に満たすことが求められます。
★ この要件が満たされない場合には、その時点で、納税猶予されていた税額に税額に利子税を加えて全額納付しなければなりません。
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イ) 事前の準備
= 相続発生前(=現・経営者の死亡の前)又は贈与の前に、経済産業大臣への確認手続が完了していること
ロ) 相続又は贈与時点における主な要件
① 亡くなった方又は贈与者が会社の代表者であること
② その亡くなった方又は贈与者と、その同族関係者で発行済みの議決権株式の過半数を保有し、かつ、同族内で筆頭株主であったこと
③ 相続人又は受贈者(後継者)がその会社の代表者となること
④ その後継者と同族関係者で発行済み議決権の株式の過半数を保有し、かつ、同族内で筆頭株主となること
⑤ 所定の手続により認定を受けること
⑥ 贈与の場合には、所定の額に見合う担保を提供すること
★ これら①~⑥の要件を満たせば、その株式の相続又は贈与に係る税額の80%分の納税が猶予されます。
ハ) 事後的な要件
⑦ その後の5年間の間、事業を継続し代表者であること
⑧ 雇用の8割以上を確保すること
⑨ 相続した対象株式を継続保有すること
⑩ 経済産業大臣による一定のチェックを受けること
⑪ 事業の後継者が死亡時まで継続して株式を保有し続けること、その他一定の要件を満たす場合
★ これら⑦ ~ ⑪の要件が満たされた場合にのみ、納税猶予額が免除され、最終的に納税義務が免除されることになります。
逆に要件を満たせなかった場合には、一旦納税が猶予された税額の全部又は一部について、利子税を加えて一括して納付しなければなりません!
(3)私からの提案 = “事前対策の必要性”
『中小企業の事業承継・経営承継』は、ここ数年来の重要な政策課題になっており、すでに平成20年10月から『経営承継円滑化法』が施行されています。
ここでは、中小企業の経営承継・事業承継への方策として次の3つの内容が掲げられており、今回の「納税猶予の特例」も、この施策の一環です。
①「相続税及び贈与税の納税猶予措置」
(=本稿で紹介したもの)
②「民法における遺留分減殺請求の特例」
③「金融支援」
これらの新しい法制度によって、これまでよりも中小企業の事業承継がしやすくなることはたしかでしょう。
しかし、これらの法制度の恩恵を完全に受けるためには、今回紹介した納税猶予制度と同じように所定の適用要件を遵守することが求められます。
そして法律の適用要件を遵守するためには、その法律の内容を知ることが不可欠であり、結果的に事前の準備が必要となるのです。
将来に向けた経営承継・事業承継をお考えの経営者の方は、ぜひ一度、ご相談ください。