(1) 問題の所在
ご案内のように、会社法の制定により「最低資本金制度」が撤廃されたことにより、資本金が1円から会社設立ができるようになりました。
これにより、これまで個人で事業を営んでいた方が次々と株式会社に法人成りしています。しかし、反面、この制度改正により事実上個人とまったく同じ財政状態の株式会社が急増することになり、取引の安全性の確保の観点からは大きな問題が生じつつあります。
すなわち、今後は新たな取引先と契約を締結しようとする際には、取引代金が回収不能になる危険性を回避するためには、その取引先の財政状態を把握しておくことが不可欠になってきています。
しかし、先方の「会社登記簿謄本」を取得しても資本金の金額しか知ることはできず、これだけでは真の財政状態は知ることはできないのです。
例えば、資本金が1億円の会社であっても過去の累積欠損金が5億円あれば、その会社の正味財産はマイナス4億円ということになり事実上破綻状態といえます。
ところが、会社の正味財産を知るために不可欠な欠損金その他の資本項目の金額は登記簿謄本には記載されておらず、会社の貸借対照表を見なければ知ることができません。
株式公開されている大企業とは異なり、大多数の中小企業の株式は非公開であるため、通常は株主以外の第三者が貸借対照表を入手することはかなり困難です。
(※ 金融機関であれば融資の際に決算書を要求できますが、一般の取引企業が開示を求めても難しいでしょう。)
(2) 決算公告制度
会社法では、取引の安全確保の観点から株主以外の第三者にも会社の財政状態を広く知らしめるための制度として『決算公告』制度が設けられています。
① 義務(会社法440①)
「株式会社は、所定の方法によって定時総会の終結後遅滞なく、貸借対照表を公告しなければならない。」
② 公告の方法 (会社法939①)
イ)「官報」に掲載する方法
ロ)「日刊新聞紙」に掲載する方法
ハ)「電子公告」
③ 罰則(会社法976②
この決算公告の怠った場合には100万円の過料を課す。
★ この決算公告の義務は、株式会社であれば全ての会社に対して課される義務であり、たとえ中小零細な株式会社であっても例外ではありません。
(3) 問題点
この決算公告制度は、会社法の制定によって新設されたものではなく旧・商法の時代から存在していました。
しかし、大多数の中小会社では決算公告は行われておらず、事実上、課料についても課されていなかったのが実情でした。
この点、先にも指摘したように、会社法では決算公告は全ての株式会社に課された絶対的な義務であって、これを実施していない場合には会社法違反として100万円の過料が課されてしまいます。
明確に会社法違反である以上、例えば反対株主から会社法違反であるとの訴追を受けた場合には、まったく反論する余地なく取締役の責任が問われることになります。
(4) ご提案
先にも指摘したように、これからの時代は中小企業の会計の適正化は会社法上の重要な要請であり、これまでにも増して決算公告制度の重要性が増してきています。
特に、今後、金融機関が融資の可否を判断する際や、公共事業への参加資格判定などに際して、その企業が会社法の規定に準拠して決算公告をしているか否かが問われるようになる可能性は充分に考えられます。
御社の対外的な信用力を高めるためにも、ぜひとも決算公告を実践することをお勧めいたします。
特に、近年では従来からの「官報」や「日刊新聞紙」に加え、「電子公告」が認められるようになりました。
これにより、自社のホームページを設けている会社は、そこで容易に貸借対照表を公告することができるようになりました。
(具体的な掲載の方法等については法律上の制約があります。)
なお、自社のホームページをお持ちでない顧問先様の場合には、この当事務所のホームページおいても決算公告を代行するサービスを行っておりますので、お尋ねください。
◎ どうしても決算公告をしたくない場合
決算公告は、あくまでも「株式会社」にのみ課された義務であって、他の会社形態の場合には不要です。
したがって、仮に、どうしても決算公告を回避したい場合には、「株式会社」から、「合同会社」や「合名会社」、「合資会社」といった他の組織形態に変更すれば決算公告をする必要はなくなります。
★ 従来の有限会社の場合にも決算公告の義務は課されていませんでした。しかし、会社法では有限会社制度が廃止されたことにより、今後は新たに有限会社の設立することはできません。