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税論卓説

1⃣ 調査手法を問う

 税務調査はどのように変わったか。税務署は、納税者を丁重に扱うようになったか。
調査件数の減少と新手法の導入
 国税通則法改正により、一般の税務調査は、原則として事前通知をしてからでなければ着手できないこととなった。また、調査終了時の手続きも定められたので、いつ終わるのかわからないということはなくなった。この手続き明確化で、税務署の内部手続も大きく変更された。したがって、従来より手続きに時間を要することになったのは当然である。
 国税庁は、このことによる調査件数の減少を快く思っていないようで、納税者との接触件数の増加を図ってきた。それが、実地の調査と実地以外の調査手法を組み合わせる「ハイブリッド調査」であり、そして、調査以外の納税者接触方法を増加させたことである。いわゆる「お尋ね」文書の乱発ともいえる状況があらわれている。これは、調査ではなく「行政指導」として行われる。納税者からすれば、全てが「調査」にみえるのだが、法令が定める手続きが必要な場合と不要な場合があるので、混乱が生じている。
調査と行政指導の区分
 つまり、調査か調査でないのかの区分を明確にすべきなのだが、国税庁は曖昧にしたままである。国税庁の内規(事務運営指針)では、「納税義務者等に対し調査又は行政指導に当たる行為を行う際は、対面、電話、書面等の態様を問わず、いずれの事務として行うかを明示した上で、それぞれの行為を法令等に基づき適正に行う。」と一応は事務手続きを定めているのであるが、日弁連に「潜脱」とまで指摘されているのに、「明示」ができていない。
 調査の権限(質問検査権)は、国税通則法に根拠をおく。しかし、お尋ね文書に回答を求める行為は、調査ではなく「行政指導」であり、納税者に受忍義務はない。行政手続法によれば、行政指導は「あくまでも相手方の任意の協力によってのみ実現されるもの」だから、「相手方が行政指導に従わなかったことを理由として、不利益な取扱いをしてはならない」と定めている。お尋ね文書に回答をしないことをもって、「調査に移行する」「加算税が賦課される」などと通知したりすると、違法ということになる。
新たな「調査の通知」とは
 さらに面倒なことができた。昨年施行の改正税法で「調査通知」があった場合に調査着手前に提出される自主的修正申告の場合でも過少申告加算税が5%加算されることとされた。「バレモト申告」を防ぐ狙いがあるともいうが、この「調査通知」は、「事前通知」とは違う。事前通知は、実地調査の場合に税務署長に義務付けるもので11項目ある。調査通知は、①調査行う旨、②調査対象税目、③調査対象期間の3項目である。したがって、事前通知は調査通知を含むのであるが、実際のちゅおさでは、まず納税者に電話連絡を入れて日程調整を行い、後日事前通知を行ってから調査に臨場するという手順になるから、通知があってから調査着手前までの間の修正申告書の提出は5%の過少申告加算税が賦課されることになる。そこで、国税庁は、「納税義務者に対して都合を聴取する際は、……調査通知を併せて行う。」(事務運営指針)としており、調査連絡の際に「その調査なんですが…」とこの「調査通知」を行おうとする例が徐々に増えてきている。
異常な調査手法の蔓延
 ところで、法律は、例外的に無通知(無予告)の調査を認めているので、事前通知はあくまで原則として、である。
 この例外のはずの無予告調査が増えている。統計データがないが、実感として間違いなく増えている。無予告調査の実施は、税務署内では税務署長の、国税局においては担当部長の決裁が必要とされている。その決裁文書を開示請求すると、真っ黒に塗り潰されたものが出てくる。法律が認めている要件に合致するのかの検証のしようがない代物である。したがって、法律違反である可能性濃厚な無予告調査が横行していそうなのである。
 いまひとつ、「質問応答記録書」の徴取の横行である。冤罪を作るような手法である。法的根拠のまったくないこの質問応答記録書に応じる義務は当然にない。にもかかわらず、しつこく求められている。
 税理士は、突然の調査臨場に対しても質も脳等記録書に対しても、顧客の権利と利益を守るべくきちんと対処したい。
 税務署の調査担当官は若返っている。調査技法を伝承するにしても、苦労があろうとは思う。大事なことは、どの仕事も同じであるが、基本を叩きこんでなければ、育つものも育たない。調査はいきなり、無予告で、納税者のパソコンなど現況調査を行わせ、質問応答記録書を取ることに力点が置かれたら、オーソドックスな調査技法を学ぶことができるのだろうか。納税者の権利保護のためにも、税務職員研修の充実を望みたい。

2⃣ 懸念広がる「簿外経費」問題

必要経費等の「否認」
 令和4年度税制改正案が問題になっている。所得税法・法人税法改正が予定される。
 所得税法についてみると、その適用対象は、不動産所得者、事業所得者、山林所得者、そして「雑所得を生ずべき業務に係る収入金額が300万円を超えるもの」である。雑所得については、シェアリングエコノミーとされる給与所得者が兼業または副業としてその経済活動を行うケースを念頭に、簡便な所得計算を行って確定申告ができるようにするためとして、「雑所得を生ずべき業務」のカテゴリーを設け、現金主義による所得計算、収支内訳書添付義務等が法定された(令和2年度改正、4年分以降適用)。その対象が「前々年分のその業務に係る収入金額が300万円以下」とされたことを踏まえている。
 この改正案によれば、「仮装隠蔽行為」による申告・無申告に対してとはされているが、売上原価や必要経費を否認できるようにするというのである。かなり乱暴な話である。
 というのは、所得計算においては実額計算が原則であって、実額計算ができない場合にやむを得ず許される補完的な計算方法である推計課税(所得税法156条)の場合でも、売上原価や必要経費が否定されることはないからである。

課税庁の立証責任
 この改正法案には、例外があって、帳簿書類等からその取引が行われたことおよび金額が明らかである場合、または帳簿書類等から取引の存在が明らかかまたは推測される場合であって、取引の相手方への税務署長の「調査その他の方法により」取引の存在と金額を認める場合にだけ必要経費に算入できるとする。
 ということは、帳簿書類等だけからでは取引金額が明らかでなかったり、税務調査等により取引の存在と金額が認められなかったりしたものは、納税者がその支出について立証はもとより主張することすらできなくなることを意味する。
 従来、所得についての立証責任は課税庁にあるとされてきた。最高裁も、「所得の存在及びその金額について決定庁が立証責任を負うことはいうまでもない」(昭和38年3月3日最高裁判決)としている。しかし、改正法案は、「必要経費に算入しない」とし、同様に、法人税法改正案は、「その内国法人の各事業年度の所得の計算上、損金の額に算入しない」(法人税法55条3項新設)としていて、課税庁に課せられた立証責任を免じ、納税者側の反証の余地を法律で封じ込めるものとなる。

立法事実が不在
 このような法改正をすべき「立法事実」がみあたらない。立法事実というのは、立法的判断の基礎となっている事実のことであり、どうしてその法律が必要であるのかということを支えている事実が明らかにされていないという点で、この法改正の緊急性、必要性そして妥当性が問われているのである。
 昨年11月17日の税制調査会の納税環境整備に関する専門家会合の報告(案)には、家事関連費とほぼ同額の外注費として1,000枚超の領収書(支払先数百名分)が調査開始後提出され、領収書記載の外注先は大半が海外居住者であり、調査官は、領収書の解明及び居住等調査に加え反面調査等により事実関係を確認した結果、領収書記載の取引が虚偽であると認定したものの、約1,000人日の事務量を投下したという事例を紹介している。これは、きわめて特殊な事例と思われる。仮に、こうした事例が存在するとして、それをもって立法事実とみなすことはできない。

隠蔽仮装行為の曖昧さ
 この改正案は、「隠蔽仮装行為」を前提としている。国税通則法の重加算税の規定(同法68条1項・2項)と同じ規定の仕方である。
 つまり、隠蔽仮装行為があったとされると、重加算税が賦課されるだけではなく、立証責任を納税者に転換することによって必要経費・損金算入を否認することができるとなると、行政制裁を重ねることで、納税者に過重な制裁を課すことになる。それは、新たな行政制裁立法であり、納税者の権利を著しく侵害することになる。
 隠蔽仮装行為の認定も実際には問題がある。隠蔽仮装の具体的事実が把握できないのに、質問応答記録書を根拠に重加算税が課されている。最近、建設業の一人親方の無申告者に対して、推計課税で7年遡及、重加算税賦課という事例を耳にする。“無申告=隠蔽”という認識が課税サイドに広がっているとしたら、問題は深刻である。

再検討の必要
 現在の国会内の与野党の状況からすると、問題のある法案も可決される公算がある。聞き上手とされる首相は、納税者の声をよく聴いてほしい。少なくとも、当該部分を法案からいったん削除して再検討を行うこと、事業者ら納税者の意見を反映させることを求めたい。税理士会は専門家としての意見を具申すべきである。
3⃣ 必要経費のはなし

 政治家が白地の領収書に任意の数字を書き込んでいたり、「資料はすべて廃棄した」との国会答弁を押し通した人物が国税庁長官になったりしている。納税者から「税務署はそれでは通らない」との声があがるのはあまりに当然である。時節柄、税務調査で問題とされる必要経費について考えておきたい。
そもそも必要経費とは
 まず、必要経費とは何か。税法にはその定義づけはないが、所得を得るために必要な支出のことをさすとして異論はないだろう。所得税法では事業所得や不動産所得の計算は、「収入金額-必要経費」という計算構造を基本として所得金額を算出することとされている。
 そして、所得税法は「必要経費に算入すべき金額」として、「これらの所得の総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用(償却費以外の費用でその年において債務の確定しないものを除く。)の額とする。」と規定している(同法37条1項)。
直接的費用のみが経費?
 調査担当官からよく聞くのが、「この支出は収入を得るために直接要した費用ではない」という言い方である。これは多くの税理士が耳にしているはずであり、それを理由に必要経費から否認されたりしていないだろうか。
 所得税法には「業務について生じた」支出であれば必要経費であると書いてあり、「直接」関係しているかどうかは必要経費の要件ではなかったはずなのである。このことが明らかにされた事件が弁護士必要経費事件である(平成26年1月17日最高裁決定)。裁判所は、「事業の業務と直接関係を持つことを求めると解釈する根拠は見当たらず、『直接』という文言の意味も必ずしも明らかではない」と判断を下している。業務に「直接」関係するものだけが必要経費に算入できるというような法令は存在しないのである。
「通常かつ必要」な費用?
 ほかにも必要経費か否かをめぐる論点がある。その一つが、「通常かつ必要」か否かという基準概念である。種を明かせば、アメリカの税法の規定(論理)をわが国に持ち込んだものである。言うまでもなく、日本の税法には「通常かつ必要」などという規定は存在しないから、これを論拠に必要経費該当性を議論してはいけない。
家事関連費の問題
 所得税の税務調査で問題となるのが、家事関連費の取扱いである。家事関連費は、家事費と必要経費の狭間にあって、判断するに微妙な支出である。所得税法は、「家事上の経費及びこれに関連する経費」は必要経費に算入できないこととしている。個人事業は個人の私生活と密接であるから、もともとこれを生活費用と事業費用を明瞭に区分することに困難をきたす。例えば、店舗併用住宅の場合や、ワンルームの自宅で事業をしている場合の経費などは明瞭な線引きが難しい。
 そこで、所得税基本通達は、「業務の内容、経費の内容、家族及び使用人の構成、店舗併用の家屋その他の資産の利用状況等を総合勘案して判定する。」(同通達45-1)とし、さらに、「その支出する金額のうち当該業務の遂行上必要な部分が50%を超えるかどうかにより判定するものとする。ただし、当該必要な部分の金額が50%以下であっても、その必要である部分を明らかに区分することができる場合には、当該必要である部分に相当する金額を必要経費に算入して差し支えない。」(同通達45-2)としている。つまりは、合理的な按分による必要経費算入を認めているのである。
レシートの話
 アメリカで「ブロードウエイの父」と呼ばれたジョージ・M・コーハンの税金裁判が興味深い。彼は内国歳入庁(IRS)の税務調査を受けたが、きちんとした記録を整理して残していなかった。
 調査官は、たとえ彼にビジネス費用があったとしても、証拠を出さなければ控除できないとした。彼は常にアメリカの中を移動しており、レシートを細かくそろえるのは現実的ではないという立場をとった。法廷に訴えた彼は、信用に足る費用の総額を提示して、たとえ記録がなくとも金額を合理的に算出でき、IRSの判断が間違っていると主張したのである。裁判所は、その金額が許される事業活動費であると判断し、IRSはレシートがないゆえに否認することは正しくないとした。
 我が国でも同じである。レシートの保存がなかったとしても、支出の事実を証明することができれば控除は可能である。政治家などの行為が問題とされたのは、事実を証明できないか、事実を隠したと考えられるからである。
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税理士 岡田俊明
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