(1)事例
≪その1≫
甲さんは前妻と死別した後、新たに再婚しました。前妻との子供たちはすでに成人しているために、自分の死後は今の自宅や預貯金のすべてを今の奥さん(後妻)に残そうと思っています。
≪その2≫
乙さんには3人の子供がいますが、長年、長男夫婦と同居しており、その長男のお嫁さんには日常的な生活の世話してもらっていました。このお嫁さんには、先年、長男が先に死んでしまった後も変わりなくお世話をしてもらっています。
この長年の世話に応えるために、お嫁さんに自分の財産を残してあげたいと思っています。
(2)遺言の意義
「遺言書」とは、自らが亡くなった後の財産の処分について、自らの意思を明らかにするために、“民法の規定に従って”作成された書面のことです。
★ 遺言書は、民法の規定に従って作成された文書でなければなりません。
この点、いわゆる「遺書」は民法上の規定に従った書面ではなく、たとえ最後の意思表示であったとしても法的な効力はありません。
(2)効力
○ 遺言書が無い場合 (=民法の原則)
民法の規定に従って、法定相続人に対して遺産相続されます。
○ 遺言書がある場合 (=特例)
遺言書の内容に従った相続がなされます。
= 法定相続人以外の者にも遺産相続できる(=「遺贈」)
★ 法定相続よりも遺言書が優先する!
(3)遺言書の種類
遺言書には、大きく次の2種類があります。
いずれの場合でも効力は同じです。
(これ以外の遺言の形態もあります)
① 自筆遺言
本人の直筆で書かれた遺言書
② 公正証書遺言
公証人役場において作成された遺言書
(4)遺言書が必要な場合
最初に掲げた二つの事例以外にも、次のような場合には遺言書の作成が必要となります。
① 夫婦の間に子供がいない場合
子供がいない夫婦の夫が死亡した場合には、法定相続では妻に3/4、残りの1/4は夫の兄弟に財産分与されることになります。
長年連れ添った妻に財産を全部相続させたいと思う場合には、遺言が不可欠となります。
なお、兄弟姉妹には,遺留分がありませんから,遺言さえしておけば妻がすべての財産を相続することになります。
② 内縁の妻の場合
正式に結婚しないままに事実上の夫婦として生活していた、いわゆる内縁関係の夫婦には相続権がありません。
したがって,内縁の妻に財産を残したい場合には,必ず遺言をしておかなければなりません。
⑤ 個人で事業を経営している場合
その事業後継者に対して,会社の株式など事業の財産的基礎を集中して相続させるような遺言を残すことが必要です。
※ 別記の「事業承継」のページを参照のこと。
⑥ 相続人が全くいない場合
相続人がいない場合には,原則的には遺産は国庫に帰属します。
したがって、特別世話になった人に遺贈したいとか,お寺や教会,社会福祉関係の団体などに対して寄付したいなどと思われる場合には,その旨の遺言をしておく必要があります。