建物や設備などの資産は長期間使用していると故障、破損したり、性能が落ちてきます。そのため、その建物や設備等は一定期間においてメンテナンスされることが常なのですが、税務上、そのメンテナンス費用は「修繕費」と「資本的支出」に区分して処理する必要があります。
ところが、実務上、その区分は大変複雑で税務調査時によく指摘されます。
資本的支出とは、対象となる資産の性能や価値を上げたり、耐用年数を延長させたりするために支出する費用のこと。一方、修繕費は資産の維持回復、修理用の費用のことをいいます。修繕費として処理できれば、その費用は支出した事業年度において全額損金にできますが、資本的支出の場合は一定期間において償却(=損金化)していくことになります。節税面で考えれば修繕費として処理できた方が有利です。
基本的に「支出額が20万円未満」または「支出の周期がおおむね3年以内」の場合は、その実態がどうであろうと修繕費として処理することが認められています。しかし、それ以外の場合には修繕費と資本的支出を判定するのが困難なケースも多く、いい加減に判定すると税務調査の際に指摘されてしまう可能性があります。
そこで、修繕費と資本的支出の区分が難しいときは、簡便的な判断基準である形式基準を使って判定することが確実です。形式基準では「支出額が60万円未満」または「支出額が対象資産の前期末取得価額の10%以下」で判定され、そうであれば修繕費として処理することができます。また、継続適用を条件に支出金額の30%、または前期末取得価額の10%を修繕費として計上できる特例もあります。
一方、修繕費であることが明らかだと思われる場合でも注意すべき点があります。
まず、納品書や請求書、伝票などの証ひょう類への記述の仕方です。こうした証ひょう類に「改善費用」とか「強化費用」「改良費用」「機能向上費用」といった表現は避けるべきです。税務調査においては疑われないようにすることが最良の対策です。安易にこのような表現をすることで「資本的支出では?」と調査官に疑われてしまっては勿体ありません。
万が一、疑われてしまった場合には実質的な証明が必要になります。その時になって慌てないよう事前の準備をしておく事が重要で、そのためには修繕の目的やその方法について詳細に記録しておきましょう。必要ならば修繕箇所などを写真で残しておきます。要は明確に修繕費であることが説明できるかどうかです。
さらに、修繕費の計上時期も問題になります。どの費用でも同じですが、期末直前の支出は税務調査においてよく問題にされます。特に支出額が大きくなりがちな修繕費は格好の標的になりやすいため、間違いの無いように処理する必要があります。