「多事争論」は福沢諭吉が『文明論之概略』のなかで述べている言葉で、開国という国家的難事に立ち向かう中、世論が「一致団結、足並みを揃えよう」という中で、まったく、逆に、「多くの人が多くの事柄について争って論ずることが、誤った選択をしないための道である」と説いた。
福沢がこの言葉で言いたかったことは、一つの社会に一つの論が圧倒的な力を占めると、たとえその論が全く正しいものであっても失われるものが一つある。その大事なものは何かというと「自由な気風」であること。「自由の気風」を保つためには、多くの人たちがいろんな議論をし合うことが大事だと、そういうことを言いました。簡単に言うと、少数意見が本当は大事なのだということを強調しているわけです。真理は、初めに出てきたときは、異端の説なのです。異端の説が文明を進めていったのだと福沢は言っています。少数の中に正しいことがありうるのだと言っているのです。(筑紫哲也氏)