はじめに:指導監査の本質を、もう一度見つめ直す
社会福祉法人の理事・監事・施設長の皆さんにとって、「監査」という言葉は決して他人事ではないでしょう。しかし、令和7年度の国の指導監査方針を読むと、監査は単なる「会計の検査」ではなく、法人運営全体を支えるマネジメントの点検と支援の仕組みであることが明確に示されています。
この記事では、国の「令和7年度 指導監査方針」と熊本県の「指導監査要綱」を手がかりに、監査を「受ける」立場ではなく、「活かす」立場として押さえておきたい5つの視点を整理します。
1. 利用者の尊厳を守ることが、監査の第一目的
監査の重点事項の冒頭に掲げられているのは、会計でも効率でもなく、利用者の人権と尊厳です。具体的には、身体拘束の廃止・虐待防止の取組み、利用者の金銭管理の適正化、事故防止・感染症対策の体制整備といった、人の暮らしと安全に直結する領域が重視されています。
このことは、監査制度が「最も弱い立場の人を守る」ための仕組みであることを示しています。法人の経営判断や業務改善の根底には、常に「利用者の尊厳」という軸を置くことが求められています。
2. 指導監査の目的は「罰すること」ではなく「支援すること」
「監査=指摘・処分」というイメージを持つ方も少なくありません。しかし正式名称が「指導監査」であるように、本来の目的は法人の自律的な運営を支援することにあります。熊本県の要綱にも、「監査職員は指導援助的態度で臨む」と明記されています。
つまり、監査は行政による“評価”であると同時に、“伴走支援”でもあるということです。役員としては、指導を「防御的に受ける」のではなく、課題発見と改善の機会として活かす姿勢が、法人の成熟度を大きく左右します。
3. 不祥事防止の要は「仕組み」づくり
指導監査では、問題発生後の対応よりも、再発防止の仕組みが重視されます。特に法人ガバナンスについては、以下のような視点で厳しく確認されます。理事会・監事監査が形式的になっていないか、理事長専決が常態化していないか、法人資金の流用や貸付などの不適切な取扱いがないか
これらは、個々のミスではなく、組織構造の歪みを問う項目です。役員会としては、単に「報告を受ける場」ではなく、「意思決定の過程を透明にする場」として理事会・監査会を機能させることが求められます。
4. 職員の待遇・労働環境も監査対象
令和7年度方針では、職員の「待遇格差」や「過重労働」もチェック対象として位置づけられています。監査では、幹部職員の報酬が極端に高くないか、一般職員の給与が著しく低くないか、労働法令が遵守されているか、研修やキャリア支援が行われているかといった項目が確認されます。
これは単なる福利厚生の話ではなく、サービスの質の根幹は職員の労働環境にあるという明確な理念に基づいています。役員には、財務と人事を分けて考えるのではなく、「人への投資」として経営全体を見渡す視点が求められます。
5. 結果の「公表」が原則。社会との信頼をつくる
県の要綱第9条には、「指導監査の結果については、社会福祉法人及び施設指導監査結果等の公表に係る実施要領に基づき、公表する」とあります。つまり、監査結果は原則として公開されます。
これは行政の透明性のためだけでなく、地域社会に対する説明責任と信頼構築の一環でもあります。監査結果を自法人の広報や職員研修に活用し、「社会に開かれた法人経営」を実現することが、これからの役員に求められる姿勢でしょう。
おわりに:監査は「点検」ではなく「経営の鏡」
指導監査は、会計・法令・人事・倫理といった多角的な観点から、法人の「経営品質」を可視化する仕組みです。その5つの柱――尊厳・支援・ガバナンス・待遇・透明性――は、いずれも「より良い社会福祉とは何か」という問いへの答えそのものです。
監査を“受ける行事”から、“学びと改善の機会”へ。この転換をリードできるのは、他でもない役員の皆さんです。次の監査を、法人の成長を確認する「年に一度の経営点検日」として、前向きに活かしていきましょう。