相続から3年以内の遺産分割
遺産分割協議が長引いても、相続税の申告期限から3年以内に分割された場合は、小規模宅地等の課税価格の特例や配偶者の税額軽減の特例を受けることができます。
◆3年以内の分割見込書の提出
特例を受けるには、相続税の申告期限(相続開始を知った日の翌日から10か月以内)までに遺産分割を行う必要があります。
ただし、未分割の場合でも、申告期限から3年以内に分割見込みがあるときは、特例の適用がない状態で相続税の申告書を作成し、申告書と一緒に「申告期限後3年以内の分割見込書」を税務署に提出します。
申告期限から3年以内に遺産分割が終了したときは、特例の適用を受けて、分割が行われた日の翌日から4か月以内に更正の請求を行うことができます。
◆やむを得ない理由がある場合の承認申請書
なお、申告期限後3年を経過する日に、裁判や調停など、やむを得ない事情により分割未了のときは、申告期限後3年を経過する日の翌日から2か月以内に「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書」を提出して承認を受けます。判決確定等を受けて4か月以内に分割されたときも更正の請求ができます。
◆土地の遺産分割協議日に注意!
相続税の申告期限から3年以内に、土地の遺産分割を行い、遺産分割協議書を作成して相続登記したものの、預金など他の財産の遺産分割協議が長引き、遺産全部についての分割が終了してから更正の請求をした場合、土地の遺産分割協議書作成日から4か月以内に更正の請求をしていないときは、小規模宅地の特例を受けることができなくなりますので注意しましょう。
◆遺産分割は相続開始後10年までに
所有者不明土地の発生を予防するために、改正民法では、令和5年4月より遺産分割未了のまま相続開始から10年経過したときは、画一的な法定相続分で遺産分割されることになりました。
また、令和6年4月より不動産の取得を知った日から3年以内に相続登記の申請が義務化されます。ただし、遺産分割未了の場合でも相続人申告登記を行い、登記名義人の法定相続人である旨を申し出ることで申請義務を履行したものとされます。これらの措置は、施行日前の相続にも適用されますので、早い機会に遺産分割協議を進めることをお勧めします。
事務所だより令和4年11月号①より抜粋
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相続の基本 遺言書と遺留分
◆自分の財産をどうするのか書き残す
遺言書は自分の財産を誰に、どれだけ残すのかという意思を書面にしておくものです。遺言には大きな効力があり、遺言書さえあれば、遺産は基本的に遺言書通りに分割されます。スムーズに相続ができるようになり、遺産の分け方をめぐっての相続人の争いも少なくなるので「争続にならないために」といったキャッチコピーでお勧めされることも多いようです。
◆3種類の遺言書
遺言書には3つの種類があります。
(1)自筆証書遺言:自分で記述し、証人が不要、保管も自分でできるので手軽に作成でき、費用がかからないのがメリットですが、形式に厳格なルールがあるため、無効になりやすいデメリットがあります。また、自筆証書遺言の保管者や発見した相続人は遺言書を家庭裁判所に提出して「検認」を請求しなければなりませんので、相続人にとっては若干の負担となります。ただし、令和2年7月から運用が開始された法務局への自筆証書補完制度を利用した場合は検認の必要はなくなります。
(2)公正証書遺言:公証役場に依頼し、公証人が記述する遺言書です。公証役場で原本を補完してくれるので、紛失等のリスクが少なく、検認も不要です。また、公証人に自宅や病院に出向いてもらって作成ができるため、文字を書けない状態でも作成が可能です。ただし、証人が2人必要となり、自筆証書遺言に比べると作成費用や手間がかかります。
(3)秘密証書遺言:内容を秘密にしたまま存在だけを公証役場で認証してもらえる遺言書です。遺言書があるという事実を確実にするのが目的です。遺言の内容をあまり知られたくない場合等に使うようですが、無効になりやすい、紛失や隠蔽、発見されないリスクがあり、あまり使われていません。
◆遺言は遺留分に気をつけて
遺留分とは、一定の相続人に対して、遺言によっても奪うことができない遺産の一定割合のことです。
遺留分があるのは、配偶者、子(代襲相続人含む)、直系尊属(被相続人の父母、祖父母)で、兄弟姉妹は遺留分を有しません。
事務所だより令和5年5月号②より抜粋
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相続の基本 配偶者控除と法定相続人
◆遺産の総額から一定額控除できる金額
相続税は「相続した財産(+3年以内の贈与財産)から、負債や葬式費用等を差し引いた後の額」が基礎控除額を上回っている場合にかかります。
基礎控除額は3,000万円+600万円×法定相続人の数となります。この基礎控除を引いた後の課税遺産の総額を相続人ごとの法定相続割合で按分したものに税率がかかり、相続税額が決まります。
相続税にも「配偶者控除」が設定されており、配偶者が取得した正味の遺産額が、①1億6,000万円②遺産額に配偶者の法定相続分(子供がいる場合は1/2)を掛けた金額のどちらか多い金額までは相続税がかからない仕組みになっています。
配偶者がとても優遇される制度になっていますが、これには「財産の維持形成に対する配偶者の内助の功や今後の生活の保障などを考慮して設けられている」という説明がなされています。
◆法定相続人と順位
法定相続人とは、民法で定められた遺産を相続できる人です。遺言書があれば相続できる人は法定相続人に限られませんが、遺言書が無い場合は法定相続人に遺産が相続されます。
法定相続人は「配偶者」と「被相続人の血族」です。血族相続人には相続順位が定められています。
第1順位:子供、代襲相続人(直系卑属)
第2順位:親、祖父母(直系尊属)
第3順位:兄弟姉妹、代襲相続人(傍系血族)
「代襲相続人」とは、「本来の相続人」が亡くなっていた場合に代わりに相続人となれる人のことで、その相続人の子等(直系卑属)です。
◆法定相続で割合が異なる
民法で定められている法定相続を行う際には、この法定相続人の順位によって分割割合が異なります。例えば、配偶者と子供がいる場合は配偶者1/2、子供1/2が法定相続分で、配偶者と兄弟姉妹がいる場合は配偶者3/4、兄弟姉妹1/4が法定相続分です。また、子や兄弟姉妹が複数人いる場合は、それぞれの法定相続分を人数で割って算出することになります。
事務所だより令和5年6月号①より抜粋
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相続税の障害者控除
◆制度の概要
障害者が相続や遺贈で財産を取得したときは、将来にわたる生活費や介護費用等に備えるため、相続税額から一定金額を控除すること(納付税額の減額)ができます。
障害者控除額は、85歳になるまで1年につき10万円(一般障害者)または20万円(特別障害者)で算出されます。例えば、40歳で父の財産を相続した子が一般障害者の場合、10万円×(85歳-40歳)=450万円の控除を受けることができます。
◆扶養義務者からも控除できる
障害者控除額を障害者本人の相続税額から控除しきれない場合は、その金額をその障害者の扶養義務者の相続税額から控除できます。扶養義務者は、配偶者、直系血族、兄弟姉妹、三親等内の同一生計親族等です。先の例で子の相続税額が300万円の場合、控除しきれない150万円は扶養義務者となる母や兄弟姉妹の相続税額から控除します。
◆既に控除の適用を受けていた場合等
既に障害者控除を受けたことがあり、今回、新たな相続で再び、障害者控除を受ける場合は、障害者及びその扶養義務者が既に控除を受けた金額の合計額を除いた額を控除できます。
前の相続で一般障害者であった相続人が今回の相続では特別障害者になった場合(あるいは、その逆の場合)は、最初の相続開始時の障害者区分に対応する障害者控除額と、今回の相続開始時の障害者区分に対応する障害者控除額との合計額から、障害者及びその扶養義務者が既に控除を受けた金額の合計額を除いた額を控除できます。
◆障害者控除の利用履歴を確認するには
障害者控除の適用を受ける場合、障害者やその扶養義務者が前の相続で障害者控除を受けていたかについて履歴の確認を要します。前の相続で申告書がある場合は、その申告書の控えを閲覧します。相続財産の評価額が基礎控除額以下であれば相続税は生じていないので、今回の相続で初めての控除を受けることができます。
また、障害の程度の履歴は、障害者手帳に記載がないため、都道府県の窓口に個人情報の開示請求が必要になります。なお、障害者に係る個人情報は、要配慮個人情報として不当な差別などの不利益が生じないように、その取扱いに特に配慮が求められます。原則は本人からの請求で履歴情報を取得しますが、障害者の代理人が取得する場合には、細心の注意を払いましょう。
事務所だより令和5年11月号②より抜粋
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相続人が外国居住者の場合の相続税の課税対象と必要書類
◆相続発生時に外国居住だったらどうなる?
外務省の海外在留邦人総数推計では、海外在留邦人数は130万8,515人とされています。日本から外国子会社等への駐在勤務の期間中に親の相続が発生することも十分考えられます。外国居住者でも日本の相続税の納税義務はあるのでしょうか?
日本の相続税法の規定では、相続などで財産を取得した時に外国に居住していて日本に住所がない人は、取得した財産のうち日本国内にある財産だけが相続税の課税対象になるとされています。ただし、財産を取得したときに日本国籍を有している人で、被相続人の死亡した日前10年以内に日本国内に住所を有したことがある場合などでは、日本国外にある財産についても相続税の対象になります。
つまり、平均年数3〜5年とされている企業からの海外駐在の場合では、大概の場合、全世界財産が課税対象となります。一方で、その国に居ついてしまって10年超の場合には、日本の財産だけが対象です。
なお、外国居住者の場合、その居住地国での相続税法の課税の有無もよく確認して対処しなければなりません。要注意です。
◆国外転出届で住民票も印鑑証明もなくなる
転出届で国内に住所がなくなると日本では住民票も印鑑証明書も発行されなくなります。遺産分割協議書には、相続人全員の署名および実印での押印と印鑑証明書の添付が必要です。また、相続財産の中に不動産がある場合には、法務局で相続登記を行いますが、登記申請に住民票が必要です。
外国居住者が相続人となった場合、この2つの書類を用意できませんが、どうすればよいのでしょうか?
◆サイン証明書と在留証明書を入手する
外国居住者の場合、印鑑証明書と住民票に代わるものとして、居住地国の日本領事館等で、別の必要書類を入手します。実印と印鑑証明の代わりとしてサイン(署名)証明書が、住所を証明する書類として在留証明書が、その書類となります。
普通は、訃報を聞いて慌てて飛んでくるので、在留証明書もサイン証明書も居住国に戻ってからの入手となります。相続自体が不慣れな上に、外国在住で通常とは違う手続きです。何度も同じ手続きをしないで済むよう手順をよく確認して進めて下さい。
事務所だより令和5年11月号②より抜粋
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親の借地の底地部分を子供が取得したとき
親が高齢になり、1人暮らしを始めると、子供としては親の介護に加え、実家の整理が気になるところです。敷地が借地である場合には、借地権の売却を考えるかもしれません。
◆単独での売却は難しい
しかし、地主に借地権を買い取ってほしいと依頼すると、反対に借地人の側で土地を買い取ってもらいたいと言われてしまうかもしれません。
そこで、借地人の子供が土地(底地)を地主から買い取り、親の借地権と一緒に売却する方法があります。もともと借地となっている土地を買ってくれる人は、通常望めません。地主も単独では底地を買ってくれる人を見つけられません。権利の制約されている土地は、そもそも取得の対象から敬遠されてしまうことでしょう。
◆贈与課税に注意!
子供が土地を地主から買い取って取得した場合、それまで親は地主に地代を支払っていても、土地が子供の所有となった場合、通常、親子間で地代を授受することはなくなります。この時、親の借地権は子供に移転してしまうので、親から子供への贈与となり、贈与課税を受ける可能性が生じます。
◆税務署に申出書を提出して贈与税を回避
そこで贈与課税を回避するため、子供の住所地の所轄税務署長に、引続き借地権者は親であるとして「借地権者の地位に変更のない旨の申出書」を、借地権者の親と土地の所有者である子供の連署で提出することができます。この場合、借地権は親に残り、贈与課税の問題は発生せず、将来、親の財産を相続するときに、改めて親の建物と借地権が相続財産となって相続税が課税されます。
◆不動産仲介業者に売却を依頼する方法も
ところで、上記のように、子供が借地のもととなる土地を地主から取得しなくても、借地人と地主が借地権と土地を共同で売却する方法もあります。買主は所有権を取得できるので売却しやすくなります。もっとも、自分たちだけで地主と交渉し、買主を探すのは困難ですので、不動産仲介業者に依頼し、地主に共同売却を提案してもらい、不動産仲介業者の販売ルートを活用して、売却してもらうこともできます。
ただし、買取り転売業者が買主となるときは、安く買いたたかれてしまうリスクを負いますので、業者の選定には注意が必要です。
事務所だより令和6年3月号①より抜粋
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